「斉藤このやろう! 帰ってくんのが遅ぇよ!!」
帰ってきた途端に、天方に叱責された。
「勇夜が、すっごい熱だして、ぐったりしてるんだよ!!」
「?!」
急いで部屋に行くと、北海が体温計を見て難しい顔をしていた。
勇夜を見ると、顔は真っ赤で、息が荒い。汗も凄く、前髪が額に張り付いていた。
「四十度近いよ」
と、北海が体温計を見ながら言った。
「うーん、病院連れて行ったほうがいいかな……トシ、富山先生に車出してもらおう。電話して。僕は保険証探すから」
「おう!」
北海と天方は、そそくさと一階に戻っていった。
残された俺は、もう一度勇夜の顔を覗き込んだ。苦しそうだ。
……汗が酷い。病院にいく前に、着替えをさせないと。
濡らしたタオルを持ってきて、勇夜の布団をはがし、起き上がらせる。案の定、服が汗でぐっしょりとしていた。
寝巻き代わりのTシャツを、脱がせる。
が、途中で手が止まる。
「?」
何か、違和感がある。
気になって、勇夜をじっと見つめた。
……勇夜って、こんなに軽かっただろうか。それに、腰もこんな細かったか。細いといえば、ここ最近戦士やら部活やらのおかげで、筋肉がついていたはずだが、腕を触った感じ、柔らかく、筋肉などついていない気がする。
むしろ、なんか太っていないか。胸の部分とか、肉がついて…………
「うん……」
「!」
勇夜が目を覚ました。
ゆっくりと目を開ける。熱のせいで潤んでいる。
勇夜はその目で俺を捉え、じっと見た。どうやら、なんで俺がここにいるか良くわかっていないらしい。寝ぼけているのだろう。
が、次第に目がしっかりと開かれていく。
そして。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」
部屋が爆音と叫びと共に吹き飛んだ。
「うわあああ?!」
俺も吹き飛ばされ、廊下に放り出される。
「な、なんだなんだ敵襲か!!」
一階にいた天方と北海が、騒ぎを聞きつけて上がってきた。
が。
「わああああああああああッ!!」
「ぎゃあああああああああッ!!!!」
勇夜の叫びと共に発生した第二波により、同じく吹き飛ばされる。
興奮したことによる霊力の暴走だ。
「な、なんだいこれは……」
ちゃっかり障壁を展開していた北海は、事態を飲み込めないために嘆いた。
そしてふと、俺を見て険しい顔をする。
「終君、まさかと思うけど、相手は病人だよ!」
「ッ?! 待て北海! 何思いついたかは知らないが、それは違う! 絶対違う!!」
「ええええええ?! 斉藤、お前なんて事を!!」
おのれ天方、こんなときだけ察しが早い。
こんなくだらないやり取りの間も、寮内は爆発を続けていった。俺達は放たれる霊力の塊を避けたり障壁で防いだりで、なんとか凌いでいた。
しかし、鍵使である勇夜の霊力は膨大である。強い衝撃が、何度も襲い掛かる。
北海も段々と苦しそうに顔を歪める。そして、叫び続ける勇夜に言った。
「勇夜君、落ち着いて!! 終君に何されたか知らないけど、僕が来たから安心だよ!!」
「おい、まだその話続いていたのか?!」
「おう勇夜! この俺もついてるからな! 安心しろ!」
「天方黙れ!」
いつの間にか俺が悪者にされている。なんてことだ。まったくもって無実なのに。
と、二人の説得が(不本意だが)効いたのか、爆発が治まってきた。
部屋の壁も吹き飛ばされたので、中の勇夜が見える。ベッドの上で、体に布団を巻きつけていた。
その顔を見て、ぎょっとした。
ボロボロと泣いているのである。
天方と北海の視線が、こちらを向いたのがわかった。
「だから違う!」
何かを言われる前に、すかさず言った。
勇夜は泣きながら、肩で息をしていた。膨大な霊力の持ち主でも、あれだけ放出すれば疲労する。
北海がゆっくりと勇夜に近づく。
「勇夜君、大丈夫? どうしたの?」
刺激しないような優しい声に、勇夜の顔は更に歪んだ。そしてそのまま、布団に突っ伏した。
「よりによって終君に見られたぁー!!」
再び二人の視線がこちらを向く。
これはまさか、本当に、俺が悪いのか……?
**********
霊力をバンバン消費していい汗をかいたせいか、熱が少し下がった。
ぼくは汗でびしょびしょの服を着替えてあったかい格好をし、額に冷却シートを張って、食堂にいた。他の三人もいっしょである。
ぼくの汗を拭こうとしてくれた終君に脱がされ、ぼくは異変の起きた体を見られてしまった。自分のわがままでその異変から目を逸らしてきたが、さすがに、もうそうはいかない。部屋とみんなを吹っ飛ばしてしまったのである。
ぼくは、洗いざらい、事の次第を話した。
『……………』
三人は信じられないという顔でぼくを見た。
「う……、し、終君は見たでしょ。何でそんな顔してるの!」
見たのに信じてくれないとは、ぼくが見られ損ではないか。
しかし、終君は困った顔をした。
「見たけど、やっぱり信じられない。いきなり性別が変わるなんて……」
確かにぼくも、自分の事だが、最初信じられなかったが。
敬太君が納得したような声を漏らした。
「なるほどねぇ。目が覚めたらいきなり脱がされてるんだもんねぇ。そりゃあんだけ暴走してもおかしくないかぁ」
ニヨニヨしながら、敬太君は終君を見た。終君がバツの悪そうな顔をする。
ぼくはそれに、慌てて取り繕った。
「い、いや、あれは今まで言わなかったぼくが悪いんだし、悪気はなかったんだし……気にしなくていいよ終君」
終君はまだ、複雑そうな顔をしていた。
「うーん、言われてみれば、確かに女だよなぁ」
と、歳君が言った。
「ざっと見、いつもと変わらないけど、声高いし、雰囲気違う感じがする……」
さすが女性嫌い。そこのところ敏感である。
「にしても、胸ないよな」
「そこはどうでもいい!!」
くっ、何故かちょっと傷ついた。
しかし、話したはいいものの、それからどうすればいいか分からない。ぼく達は、打開策を考え込んだ。
「こういう呪いってあるのかな」
ぽつり、と敬太君が言った。しかし、彼自身も、それは無いと思っているようだ。
新一先輩の件で、呪いに関しては一層扱いが厳しくなったと聞いている。元々呪いは禁止されているし……。それに、ぼくを女の子にしてなんのメリットがあるのだろう。
反応が返ってこないため、敬太君は唸った。
「大人の人の知恵も借りるしかないか。富山先生がもうすぐ来るし」
熱を出したぼくを病院に連れていこうとしたので、京先生を呼んだのだ。京先生はなにかと寮生の面倒を見てくれる。
出来ることなら自分達で解決したかったが、仕方がない。ああ、こんな恥ずかしい事態を説明するのか……。
ちょうど、車の音が外でし、先生が走ってくる音がした。
そして、食堂の扉が勢い良く開かれた。
「勇夜――――!!!! 熱を出したとは本当かー?!」
「た、辰巳さん?!」
入ってきたのは、辰巳さんだった。後ろから、京先生も追かけてきた。
終君が辰巳さんの姿を見たと同時に、ぼくを自分の後ろに下がらせた。おかげで、辰巳さんはぼくに飛びついてはこなかった。
「富山先生、なんで蛇がいるんですか」
終君は怒りを抑えた声で、言った。京先生は、それにため息をついて答えた。
「ちょっと野暮用で一緒にいたんだ。その時に電話を貰って、内容を言ったら、ついてくるとダダをこねた」
それに、終君が小さく舌打ちをした。……聞かなかったことにしよう。
「そういえば遠藤、熱のほうはどうした?」
電話の話では、高熱を出して寝込んでいるはずのぼくである。
「あー、それはですねー……」
にしても、これで事情を話す相手が増えてしまったのだが……。
ぼくは腹をくくることにした。
……話を聞いて、やはり二人も呆気に取られていた。まじまじと見られ、ぼくは助けを求めるように周りを見るが、みんな仕方がないという顔をしている。
その時だった。
「む、勇夜」
「え?」
辰巳さんが壁である終君をすり抜けて、ぼくに接近していた。屈んで、首元に顔をうずめる。それに体が強張った。顔が、物凄い近い。
「おまえっ……!!」
終君が掴みかかろうとしたが、寸でのところで跳んでぼくから離れた。
音もなく着地した辰巳さんは、驚くぼくと睨む終君を見て、ニヤッと笑った。
「なんだ、これは案外簡単に解決するぞ」
「ええ?!」
今、なんと言った。簡単に解決って、ぼくが女の子になっちゃったことが?!
「ぼく、男に戻れるの?!」
「ああ。ただし」
辰巳さんは、少し面白そうに笑った。
「天方家の子息と、斉藤家の子息には、がんばってもらわんと」
**********
廊下に、けたたましい足音が響く。同時に、保健室の扉がはじけるように開かれた。
乙女は何事かとそちらを見ると、見知った顔が二つあった。
「歳君、終君!!」
乙女お気に入りの二人だ。すかさず飛びつこうとしたが。
「っだー!! 斉藤、さっきからしつこいぞ!! 乙女はオレのもんだ! 邪魔すんならぶった斬るぞ!!」
「やかましい! お前は言い寄ってくる女と適当にくっついていろ! 乙女は俺が貰っていく!」
と、保健室に入る途端、二人が言い争いをしている。乙女は、飛びつくのを忘れて、呆気に取られた。
「な、何この超展開……」
二人が、自分の事を、俺のもんとか貰っていくとか……。
「何この超展開ー!!」
乙女は感極まって、涙を流しながら歓喜した。
そうしている間にも、二人の争いはエスカレートしていく。
「けっ……どうやら本当に刺身にされてぇみたいだな、斉藤!!」
歳が、霊力でできた刀を抜いた。それを、終に向ける。
「望むところだ。お前とは決着をつけなくてはと思っていたしな」
終も、拳を握り、構える。
そして。
「「死ねええええええええ!!!!」」
二人の争いが、再び始まった。
「ちょっと、二人ともやめて!!」
乙女は慌てて叫んだ。
保健室は特殊なつくりによって、霊術などの衝撃に強くなっている。防音もしており、二人の怒号も霊術の爆音も、外には漏れないはずだ。
しかし、乙女は叫ぶ。なぜなら。
「私の為に争うなんて……やめて二人とも――――!!!!」
乙女は完全に、どこぞのヒロインになっていた。
そして、どこぞのヒロインに倣って、二人の間に割って入る。
ちょうど、二人が同時に霊術を放とうとしていたところだった。
二人は乙女がいきなり割って入ったのを見て、霊術を……
「「滅べええええええええ!!!!」」
思う存分ぶっ放した。
乙女は、無残に黒焦げになった状態で、捕縛された。
*********
「恋は盲目とは良く言ったものだ。素人の演技に騙されるとは、我が弟よ、情けないぞ」
辰巳さんはそう、楽しそうに言った。逆に乙女先生は、さめざめと泣いていた。
「酷いっ……一度ならず二度までも……っ! 何回純粋でガラスな乙女心を傷つければすむのよっ!」
「……そういえば、お前、ついさっき俺に殴られたのに、なんでさっきの演技信じたんだ……」
乙女先生に、終君がそう言った。ぼくの為に買い物に言ったときに、二人は出会ったらしい。その際に、いつものことだが、霊術やら何やらで吹っ飛ばしたようだ。
と、いうわけで、辰巳さんは、まず乙女先生を捕まえろと言った。だから、乙女先生が気に入っている二人を使って、油断させて、捕縛したのだ。
「乙女も未熟者とはいえ我が弟。普通に霊術を放っては、避けられるからの」
……ぼくには、単に辰巳さんが面白いもの見たさにさせたようにしか思えないのだが……。
「で、辰巳さん。もしかして勇夜君の件は、乙女先生が犯人なんですか?」
敬太君が言った。彼もニヤニヤしている。
辰巳さんは、敬太君の言葉に頷いた。
「勇夜の『中』から、乙女の霊力の香りがしたのでのぉ。乙女が何か勇夜に術を仕掛けた痕跡だろうと思ったのだ」
「術?! お、乙女先生、一体ぼくが何をしたっていうんですか!!」
ぼくは縛られている乙女先生に詰め寄った。男を女の子にして、何が楽しいんだ!
しかし、乙女先生は、焦ったように言い返した。
「待ってよ、あたし、勇夜クンには何もしてないわよ!!」
「おお、しらを切るか乙女よ。わしがお前の匂いを嗅ぎ間違えると?」
辰巳さんはどこからか扇子を取り出し、それで乙女先生の顎を持ち上げた。気のせいか、辰巳さん凄くイキイキしている。乙女先生は、辰巳さんの楽しそうな顔を見て、憎々しげに顔を歪めた。
「辰巳さん待って」
敬太君が、そこに割って入った。辰巳さんは邪魔されて不機嫌そうに敬太君を見た。
「なんだ、北海の子息」
「勇夜君『には』ってことは、他の人に何かしたんですか、乙女先生」
乙女先生は、敬太君から目を逸らした。……わかりやすい反応である。
しかし、乙女先生は、ぼく達の視線に耐え切れず、口を開いた。
「……しました。しましたよッ!! 昨日、あなた達の夕飯のお味噌汁に、ちょっとアヤシイお薬仕込みましたよ!!」
「な、何ぃー?!」
アヤシイお薬って何だ!
「そういえばお前、そんな薬作るの、昔から趣味だったのぉ……」
開き直った乙女先生に、半ば呆れながら辰巳さんは言った。乙女先生は、縛られていなければ、こぶしを握りそうなほど、熱烈に語る。
「あたしは寮に入れないからね。特定の人物一人や二人を狙えなかったのよ。だから、窓からこっそり鍋に向かって投げ込んだの。味も匂いもない、あたしの最高傑作!」
その言葉に、終君が拳を握った。
「き、貴様……俺の料理になんてことを……」
「わー! ちょっとまて斉藤! まだ駄目、まだ殴っちゃ駄目!」
そういえば、昨日の料理当番は終君だった。今にも殴りかかろうとしている終君を、歳君が押さえた。
乙女先生は開き直ったのか、どかっとあぐらを掻き、ため息をついた。
「さっき終クンと会った時、何も変化がなかったから、失敗したと思ってたのに……まさか勇夜クンがなってるとは思わなかったわ。しかも、拒絶反応まで出てる。その熱、薬に混じったあたしの霊力と、勇夜クンの霊力が反発しあってるのよ」
少し軽くなったが、まだ熱はあった。顔も火照ってるし、額には冷却シートをくっつけてるし、厚着してるし。体もだるいので、その薬が原因なら、女の子になった状態共々、熱もなくしてほしい。
「そもそも、なんでこんなことしようと思ったんですか……」
ぼくの言葉に、乙女先生の顔が引きつった。うつむいて、ぽつり、と言った。
「……女の子なら、腕力も体力も男の子より落ちるでしょ。その間に捕獲しようと思ったの」
……やっぱり、ターゲットは歳君と終君か……。
「とにかく、早々に治して下さい! いい加減男に戻りたいですから!」
「ああ、解毒剤なら、そこの戸棚の紫のビンよ」
「おお、これか。勇夜」
辰巳さんが、縛られて動けない乙女先生の代わりに、戸棚からビンを拝借して、ぼくに渡した。
手のひらに収まる瓶に入っており、毒々しい紫色をしている。
……飲むのに抵抗があったが、文句は言ってられない。ぶどうジュースだと思って飲み干す。
「うわ、にがっ……、ッ?!」
口の中に苦味が広がるのと共に、めまいが襲ってきた。しかし、それはすぐに治まる。
「治ったのかな……あ!!」
ぼくは、自身の喉を驚いて押さえた。
声が、戻っている。
ぼくは、薬の効果がちゃんと現れたのか確信を持つ為に、決定的なところを押さえた。
涙が出た。
「あるっ。さっきまでなかったものがあるよー!!」
そして思わず叫んだ。
「おいおい、叫ぶなそんなこと……」
内容が内容だけに、歳君が苦笑しながら言った。しかし、これが叫ばずにいられようか。
気付くと、熱も下がっていた。体も元に戻ったし、元気百倍である。
「やったー!! 今日は赤飯だー! 祝おう! この喜びをっ!」
「はっはっは! よかったのう勇夜。やっぱり勇夜はこっちじゃないとのう!」
はしゃぐぼくに、辰巳さんが同調する。手を取り合って、くるくる回ったりする。
ふと、敬太君が言った。
「そういえば、何で勇夜君にだけ症状が現れたんですかね」
そうだ。薬の入ったお味噌汁は、みんな飲んだのである。でも、あの日ぼくはおかわりを三杯したので、量のせいじゃないかと思う。
しかし乙女先生は、少し考えてから答えた。
「……そういえば、一応それ、一滴でも発症するようになってるのよねぇ。結構な量投与したのに……なんでかしら」
それからしばらく敬太君は、考えるように黙っていたが……不意に、にこっと微笑んだ。
そして。
「炎流羽々!!」
「みぎゃあああああああああ!!!!」
浄化の炎で、乙女先生を燃やした。
そのまま消滅、とまではいかないが、乙女先生はそのまま青い光を全身から煌かせながら気絶した。先生は特殊なアヤカシなので、放っておけば再生するだろうが……。
「け、敬太?」
歳君が、敬太君の突然の行動に動揺している。うつむいた敬太君にそっと近づき、顔を覗くと……
「ひィッ!!」
悲鳴を上げて、終君の背後に隠れた。
途端に、保健室が不穏な雰囲気に包まれる。
「ど、どうしたの……?」
ぼくがそういうと、敬太君はうつむいたまま、ずんずんとこっちに向かってきた!
かなり怖かったが、足が震え始めて動けない。
は、覇王に一体何が……!
敬太君はぼくの腕を掴んだ。そして、自分のほうにひっぱる!
「うわああああ!」
あまりの恐怖に、思わず叫ぶ。
敬太君はぼくの腕を、“自分の胸”に押し付けた。
あまりの奇怪な行動に……そして、その行動の結果わかったことに、唖然とした。
やわらかい。
敬太君の胸が、やわらかいのである。
言葉が出せないぼくに、敬太君は頬をひくつかせながら頷いた。
「どうやら、『僕達』も効果が現れたようだ……」
それに歳君が反応して、自身の体を確かめる。
「う、うわ! あ、あるもんがない! んでもってないものがある!!」
体の色んなところを押さえて、高くなった声で歳君が叫んだ。
「……天方、でかくなってるぞ」
「おめえが小さくなってんだよ!!」
「?!」
そして、終君も、いつもより背が縮んで、声も変わっている。
「こ、これは珍妙な……」
さすがの辰巳さんも、苦笑いした。
この一瞬にして、野郎三人は女の子になってしまったのだ。
「辰巳さん、解毒薬は?!」
敬太君は、いつになく声を荒げて言った。
「……紫色は、もう無いぞ」
しかし、戸棚には、透明や茶色はあるが、紫はない。
それを聞くと、敬太君はもう一度乙女先生を燃やした。乙女先生が、悲鳴をあげながら目を覚ます。
「げ、外道! 北海の人間はなんでいつになってもそう冷酷なの!!」
「黙りなさい!! トシや終君はともかく、僕までこんな姿にして! さっさと薬を作れ!」
「と、特定人物ピンポイントで狙えないって言ったじゃないー!」
「いいから作らんかあああああ!!!!」
け、敬太君のキャラが壊れている……!!
その後、乙女先生は燃やされながら、三日三晩寝ずに解毒剤を作った。
ぼくの発症が早かったのは、やはり量の問題だったようだ。
そして、ぼくは解毒剤が出来るまで、拒絶反応が出た三人を面倒見なくてはならなくなり……
「終君寝てなきゃだめだよ! 君が一番拒絶反応激しいんだから! 料理は京先生が来てくれてやってくれるって言うから大人しくして……ぎゃあああああ倒れないで寄りかからないで胸、胸がっ……!! って歳君はなにしてるの?! うわあああお風呂あがったんなら服着てよ! いつもみたいにパンツいっちょじゃだめでしょ!! えーじゃない! そもそも拒絶反応少ないからって君も寝てなきゃならないのに……。あ、あと、敬太君、貧乏ゆすりやめて、あ、いや、なんでもないです、すみません……。な、なんでいつも以上に気迫増してるんだよぉ〜……ううう」
最初から最後まで、散々な目にあってしまった。
ぼくも後で、乙女先生をぶん殴ってこようと思う。
【完】