髪がお尻の位置にきているほうがA、それよりは短いのがBだ。
 刀を構え、斉藤君と対峙している。

 ぼくはただ訳が分からず、彼らを凝視していた。
 ……いや、マジで訳わからん。


■  勇夜の悪夢・再び 〜MAX SPIRIT〜



「「デュアル・オーロラ・ウェイブ!!」」

 虹色の光が辺りを貫く。その中に包まれていったお面侍達の姿は、あまりに眩しくて確認できないでいた。
 しかし数秒後、その光ははじけるように消えた。
 そして、そこから現れた彼らは、

「浄化の使者・マスクブラック!」
「浄化の使者・マスクホワイト!」
「「2人はお面侍!!」」
しゃきーん☆

 お面侍Aは黒を、Bは白を基調とした、フリル大全開の衣装(スカート)を纏い、ポーズを決めていた。狐のお面はしっかりとつけている。

 ごめん、お面侍……
 君達のこと、今すぐ葬り去りたい。
 痛い、痛すぎる! こんな人達に助けられたぼく、末代までの恥!!

 ぼくは呆れを通り越して精神がどこかに飛びそうだった。今やお面侍のせいで呼吸不全に陥っている。
 それは今まで真面目に構えていた斉藤君も同じで……
 同じで……

ザケンナー!!

 さいとーくぅぅぅぅぅん!!
 信じてたのに! 信じてたのに!! 乗らないって信じてたのにぃぃぃ!!

「闇の力の僕達よ!」
「とっととおうちに帰りなさい!」

 しかし、呆然としたのもつかの間、そのセリフを言った途端、お面侍が動いた。
 先手を切ったのはお面侍A。素早く近づいて、刀を斉藤君に叩きつけるように斬り込……蹴り込んだ。
 刀、刀じゃないの?! じゃあその腰についている物は何ッツ!

 斉藤君はAの蹴りを高く跳んでかわした。そしてそのまま重力を活かし、お面侍Aに向けて足を振り下ろす。
 その瞬間。Aに遅れたお面侍Bが動いた。
 まだ空中の斉藤君に向かい、拳を振り上げたのだ。
 下はA、前はB。斉藤君はどちらに気を配るかで迷い、結局二人分の攻撃を喰らった。
 二人は手を緩めることなく、殴る蹴るの暴行を加えていく。
 ……いや、二対一じゃ暴行でしょ? いくらなんでも。むしろリンチに等しい……。

 そして斉藤君がそのダメージで動けなくなると、A、Bは距離をとり、空に手を掲げた。
 これは、まさか。

「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」

 掛け声と共に、黒と白の雷が二人に落ちる。

「お面侍の、美しき魂が!」
「邪悪な心を打ち砕く!」
「「お面侍・マーブル・スクリュー!!」」
ずごごぉぉぉぉん!!!!
「のわぁぁぁあああ?!」

 思ったとおり、黒と白の交じり合った雷が斉藤君を襲った。
 しかし!!

「はぁあ!!」
すばぁ!!!
「「きゃああぁ―――――!!」」

 あの雷の中を、斉藤君は切り抜けた。そして一陣の風を起こす。不意を喰らった二人はまともにそれを受け、地面に倒れた。

「トドメだ!!」

 斉藤君が二人に向かって足を踏み込む。そしてその反動で回転し、空中で足を横に振り切る。ミドルキックという奴だ。
 それが先ほどのカマイタチとなって放たれる!
 だがその瞬間、救いの女神が現れた。

「シャイニールナミス、参上! とぉ!!」
「のわ!」

 上空から誰かが現れ、斉藤君を蹴り飛ばした。

「助けに来たわよ、ブラック、ホワイト!」
「「ルナミス!!」」

 新たに現れたその人物に向かい、お面侍二人は駆け寄った。
 三人揃うと、更に不気味さが増した。だって三人共、平均身長一七〇センチ以上なんですから。
 新たに現れたほうは、こちらもフリル全開で、ピンクを基調とした衣装だった。
 そして、狐のお面を被っていなかった。なので、顔が丸見えだった。
 その人は……
 ぼくのお父さんだった。

 あぁ……きれいな花畑が見える……

「さあ二人とも! 一気にザケンナーを片付けるわよ!」

 そのお父さんの一言で二人はうなずき、手を合わせた。
 そして、三人して叫んだ。

「「「お面侍・マーブル・スクリュー・マァァァァアックス!!!」」」
「もういやぁぁぁ―――――――――!!!」

 ぼくも叫んでた。



「あぁぁぁあああ―――――――――――……あれ?」

 ぼくは自分の声で目を覚ました。体中水を被ったようにびっしょり。手なんか、阿波踊りを踊っているような形で宙に留まっていた。
 ……えっと、夢オチ?

「もしかして新手の悪夢?」

 血の気が引いた。
 ほ、本当に悪夢だった。でかい野郎が三人揃ってフリフリ衣装。しかもそのうち一人が身内。
 へこんだ。へこみまくった。今日は学校休みだから、ぐうたらしてよう。うん。
 ぼくは再び眠りに付こうと、目を閉じた―……。
 が。

「「デュアル・オーロラ・ウェェェェェエイブ!!」」
「いやぁぁぁぁぁぁぁああ?!」

 再び聞こえる、あの声!
 しかし、今のははっきりと現実で聞こえた。夢の中ではない。しかも、向かいの部屋からだ。
 ぼくは起き上がって、向かい側の部屋に入った。そう、歳君の部屋だ。
 扉を開けて卒倒しそうになった。
 そこには、敬太君と歳君が、日曜にやっているアニメの試写会もどきをしていたからだ。

「おぉ、勇夜。お前も見る? ビデオの整理してたらタイトルないの出てきてな、そしてらこんなの録画されててさぁ」
「特撮撮った流れだろうね。で、なんか面白くなったから昨日の夜中から見てたんだ」
「……夜中、から?」
「うん」

 さらりと言う敬太君に、アニメに意外とはまっている歳君。
 ぼくは一旦部屋に戻って、もう一回歳君の部屋に戻ってきた。ぼくの奇行に、はてな顔の敬太君。歳君はアニメに見入っている。格闘シーンが参考になるらしい。
 ぼくは胸いっぱいに空気を吸い込み、そして吐き出した。

あの夢は貴様等のせいか――――――――――!!!!
ぽいっ!

 ぼくは叫んであるモノを投げ込んだ後、部屋の扉を思いっきり閉めて、開けられないように固定した。更に、窓にはしごで回り込んで、ダンボールを打ち付ける。我ながら早業だ。
 その途中、中から悲鳴が聞こえた。

「え、なんだこれ煙はいて……ってバル●ンじゃねぇか!! うぉおゲホゲホゲホ!!
「と、戸が開かない?! 窓も?!」
「勇夜テメ、なんの恨みがゥエホゥエホゥエホ!!!」
「しかもこれ旧型だから霧じゃない……ゲホゲホ!!」

 悪夢は誰だって見たくない。
 だから、その元を無くすのは大切なことだよね!

 二人とも、今度何かあったら消火器(投げ型)だよ!


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