真戦組・没文集 〜第二部編〜
『戯言』では、「:」この記号からその記号まで、白文字で文章を何故削ったのかなどの、まさに戯言が書かれています。反転してお読みください。



小学生勇夜(三話)


 アヤカシはその隙を見逃さず、終君の首に蹴りを決めようとした。
 逃げられるが追かけられると面倒だから、仕掛けることにしたんだ。
「終君!」
 ぼくの叫びと共に、霊力を練り上げるイメージを作り出した。もちろん、間に合うはずなんてないんだけど……

 一瞬だけ、アヤカシはこちらに気を取られた。ぼくにはよくわからないが、ぼくの霊力は類ないほどの大きさらしい。その巨大で、彼らにとっては最高の『餌』がそこにあるという、食欲。その巨大な霊力が、攻撃を仕掛けようとしている、恐怖。

 それを逃さず、歳君が真横に刀を振った。宙に居たアヤカシは逃げることが出来ず、その刀をもろに喰らった。
 アヤカシは両断された。その傷口から、青白い光が噴き出す。それと共にアヤカシは霧散した。
「浄化完了! はぁ、疲れた……」
「うーん、またぼく活躍できなかったなぁ……やっと霊術もうまくなってきたのに」
「だーめだめ。せめてオレよりも霊術うまくならねぇと、とても役には立たねぇよ」
「むぅ!」
 ぼくは、歳君と同じく座り込んだ終君を見た。

 終君に取り憑いていた天狗と呼ばれるアヤカシを倒した後、ぼくと終君は戦士の仲間入りを果たした。
 しかし、ぼく達二人は浄化の力はもちろん霊術も初心者だった為、寮の同じ部屋に入れられ、敬太君の冷笑の元で行われたスパルタ教育をこなしていた。
 終君は、戦士やアヤカシのことを「知っている人」の中でも名家と呼ばれる所の生まれだった。それなりに知識があったため、浄化の力も霊術もそつなく習得していった。
 対してぼくは、直前まで「知らない人」だったのだ。オマケにぼくの『鍵使』という能力は前例も少ないため資料がない。力の詳しい特性すらもわからなくてコントロールできず、四苦八苦していた。
 更にぼくの霊力は安定していないとかで、うまく霊術が出ないのだ。いきなり強くなったり、急に弱くなったり。最近は感情の乱れがあっても、力を暴走させない程度は霊力をコントロールできた。しかし、それっきりあまり進歩がない。

「みんなずるいよねー。身長一七〇センチ超えてるし、童顔じゃないからー」
「そもそもお前が尋常じゃねぇんだよ。オレと斉藤に挟まれてみろ。お前小学何年生だ?」
「むがー!! そういうこと言うかー!! 小学生よりは大きいもん!」


戯言:一七〇とか具体的な数字を入れる必要を感じなかったので。それと、ここではこの三人でアヤカシを撃退してますが、朱美の存在を出そうと考え付いたので、ごっそり削除。



歳vs朱美(六話)


 ずばーんだの、きゅばーだの、しゅごおぉぉだの、ありえない音を立てつつ一戦交えている二人を脇にして、どうしてこの人は冷静でいられるのだろう?!
 ぼくは、何事もなかったかのように笑顔で寮に戻る敬太君を、ある意味の尊敬の目で見送っていた。

「えっと、今日の料理当番は……」
 家事当番の順が書かれた表を見ながら、敬太君は呟いた。
 外では戦闘、中では物が散乱。なんだかどっと疲れが出てきた。こんな状態なのに、敬太君は至って普通だ。
「……あの二人……まだこんなことしてたのか……」
 不意に、終君が呟いた。彼もいつも通り、眠たそうな目で外を眺めている。
「まだって、前にもこんなことしてたの?」
 ぼくが聞くと、終君はぼくのほうに視線を当てて、小さくうなずいた。
「幼稚園の頃も、よく霊術でケンカをしていた……」
「そ、そんな小さい頃から?!」
 そんな頃から殺伐としたケンカを繰り広げてきたのか……。それが今日まで続いているなんて、一体何が原因なんだろう。
「あちゃー、今日の料理当番トシだよ。仕方がない、今日は僕が作るから、二人とも部屋の片付けお願い」
 そう言って敬太君は、悠々としながら台所に入っていった。

 久しぶりに晴れた空には、再び雨雲を呼び込んでいた。
 ぼくはその空を見上げ、もう一雨きそうだなと、響く破壊音を聞きながら思った。


「終くーん、ちょっと手伝ってー」
 掃除も終え、割れた窓ガラスをどうしようかと考えている時だった。
 敬太君が台所から呼びかけ、終君はそれに応じて台所に入っていった。
 しばらくして終君と敬太君が、二人で大きな寸胴鍋を持ち上げてきた。その鍋の大きさといったら、ぼくが入れて、なおかつ深さが膝までくるほどだ。
 そして、そんなものの中に入っているのは……この香ばしい匂いからして。
「カレー! わーいカレー大好きだよ! でも、そんな大量に作って傷まないの?」
 気温が上がり始めたといっても、まだまだちょうどいい気候の時期である。しかし、さすがにこの量では冬でも心配するだろう。
「大丈夫大丈夫。半分くらいは今日でなくなるよ。疲れて帰ってくる子が二人もいるんだからね」
「二人って……島原さんも?」
「うん、ご飯は大勢のほうが楽しいよ!」
 敬太君は実に嬉しそうに、これまた大きい鍋敷きの上に鍋を置いた。
「ちなみに、二人どうなってる?」
「まだ続いてるよ」
 ぼくは外にいる二人を指差した。

 二人はまだ戦ってはいるが、最初の勢いはなくなっていた。
 ……というか、もう限界に近いと思う。


戯言:展開のテンポが悪いなぁと思ったのと、またご飯シーンが出てきたこと。どうやら私は、展開に困るとご飯とか食べ物を出してくる模様。



真戦組と朱美(おそらく十五話


「そうねぇ、とりあえずアンタと敬太君をどうやって引き離すか問題よね」
『うわぁ?!』
 神妙な雰囲気になっていた時、いきなりぼくの後ろから声が振ってきた。
 振り返ると、赤い髪の毛がふわりと香った。
 島原朱美さんだ。
「い、いつの間に!!」
 しかも、ぼくのすぐ真後ろ。
 歳君も蒼白して、いつの間にか部屋の隅に逃げている。
「お前何しに来たんだよ! また戦いに来たんなら帰れ!」
「そんなわけないじゃない。ちょっと面かしなさい、歳」
「って思いっきり喧嘩腰じゃねーか!!」
「あ、間違ったわ、いつものクセで。顔こっちに向けて、歳」
 そういうと島原さんは、ポケットから携帯を取り出してそれを開き、歳君に向けた。
 ぴろりん、という可愛い音がたつ。
 そして、次は敬太君に向けて、ぴろりん。んで、次はぼくに向けて。
 最後に、終君に向かって、写メを撮った。
「……な、何?」
 敬太君のだけなら見当はつくが、何でぼく達の写メまで撮ったんだろう。意図がつかめず、ぼく達はしばし呆然としていた。
 島原さんは、写真がちゃんと取れているか確認しながら言った。
「歳、アンタここ最近家に帰ってないでしょ。小母様心配してたわよ? だからこうやって、元気な姿を写メに収めたわけよ」
「あ、そ、そうなのか? でも、なんで勇夜と斉藤まで撮るよ?」
「それは、小母様が二人の顔を見てみたいって言ったからよ。鍵使と、斉藤家の子息が一体どんなのか」


戯言:時間が経ってしまったので、どのあたりか忘れてしまった……。おそらく十五話で、勇夜をさらった一味の話を、歳のお母さんに伝える〜という話の別案だったと思います。朱美がたまたま寮にやってきた、という。テンポが悪いと思ったので削除しました。それと、なんか写メって言葉が何か気に食わなかった。一応現代ものなので、出てきてもいいとは思ったのですが、出してみたら意外と不自然に感じたので。



小倉先輩とお母さん(二十五、二十六話の間の話)


「……母さん?」
 ゆっくりと開かれたまぶた。俺は小さな声で、そっと話しかけた。しかし、静かな病室には、それでもしっかり響く。
 母さんはしばらくぼーっとしていたが、俺の顔を見てにっこりと微笑んだ。普段、化粧も何もしてないし身なりも整えないからわからないが、意外と母さんは美人だ。うん、家族自慢。

 ごたごたがあった昨夜……つっても、時刻的には今日。
 自分の雷で自身を貫いた俺は、その後病院に担ぎ込まれた。その前に、乙女先生が治療を施してくれたので、今は体中火傷だらけ包帯だらけだが、歩くことも出来たし、こうして母さんたちの見舞いに来る事だって出来た。といっても、俺は隣の病室なんだけども。

 さっきまで北海が来ていたのだが……
 孝司さんが亡くなったことや、孝司さんが脅していた学園の生徒達は記憶をいじって忘れさせたということ。ついでに母さんや進、志信の記憶も消したほうがいいということや……色々な事後報告を受けた。

 そうしてたら、母さんが目覚めそうだっていうんで、北海は「お大事に」といって帰っていった。

「……父さんの夢を見たわ……」
「え?」
 母さんが、悲しそうな顔で……でも、どこか嬉しそうに言った。
「もう、悲しまないでって。自分の事は追いかけないでって……」
「…………」
 なんと声をかけていいかわからなくて、俺は黙った。

 不意に、母さんは俺の頬に手を伸ばした。
「本当よね……父さんは、貴方達を残してくれたのにね。私には貴方が、進が、志信がいるってのにね」
「…………!!」

 何故か、その言葉が。
 とても、とても心に染みて。

 俺は久しぶりに、家族の前で涙を流して……
 でも、それでも嬉しかったから、笑っていた。


戯言:個人的には入れたかったのですが……最終話でのお父さんとの話を考えたら、新一と家族のくだりを連続で入れるのはちょっとくどくならないかなぁと思ったので削りました。あと、これは二十六話に続くのですが、どうにもながりがうまく書けなかった、というのもあります。

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